大分大学医学部学生を対象にした結核予防対策

2016年3月
大分大学保健管理センター挾間健康相談室

はじめに
 かつて国民病といわれたわが国の結核は 1985年ごろまでは急速に減少し,その後も鈍 いながらも減少を続けていたが,1997年より新規結核登録患者数,罹患率などが増加に転 じ,1999年7月に『結核緊急事態宣言』が出された。また結核による死亡率(人口 10万人対 1.8人 2006年),罹患率(人口 10万人対 20.6人 2006年)は欧米の死亡率 0.1~ 1.2人,罹患率 4.3~10.8人に比べて依然として極めて高率で,世界的には結核中まん延国の立場に変化はない。1997年より3年連続で増加していた新規結核登録患者数と罹患率はその後 5年連続で減少している(平成 16年結核発生動向調査年報より) 。20歳代の新規結核登録患者数は減少したが10歳代は横ばいである。年齢階級別の結核既感染率の推計では20歳で1990年2.6%であったが,2000年には1.3%,2003年では0.7%とされている。 罹患率では20歳を境に急激に高くなり,青年層の新患者について留意しなければならない。 1999年から2003年の5年間の集団感染事例は全国で227件にのぼり,学校69件,職場72件でこの中心は若年成人である。 
 大分大学医学部では医学科・看護学科の学生の大部分が20歳代であり,臨床実習では医 療機関で患者との接触の機会があり,学外のボランティア活動などでも国内外の医療・福 祉関係では結核感染の機会が多いことが推測される。医療系学生は同時に二次感染源となりうることからデンジャー層と位置づけられている。また,本学受入れ留学生の出身はア ジア・アフリカなど結核罹患率の高い地域が多い。これらにより今後も結核検診と感染予 防対策は確実におこなわなければならない。
 2003年 4月の学校検診におけるツベルクリン反応検査および BCG 接種の廃止,2005年 4 月の結核予防法の改正をうけて,また学内事情としては医学部附属病院における電子カルテ導入により2008年3月に改訂を行っている。なお結核予防法は2007年3月末をもって廃止され,結核は感染症法第 2類疾患に分類されている。

1. 結核定期検診
1)胸部 X線撮影
 4月の学生定期健康診断で毎年全学生(医学科1~6年,看護学科1~4年,大学院生)を対象にデジタル撮影を実施する。未受診者には診断書提出(胸部 X線撮影)を義務づける。デジタル撮影の結果,必要なものには精密検査をおこなう。

2. 結核定期外検診
 医学部附属病院で結核菌排菌患者の発生が病院感染制御部および医事課に届出された場 合,保健管理センターへも連絡され,センターも調査に協力する。実習グループの確認,受け持ち患者の確認(当該患者か否か,当該患者と同室者か否か)接触の度合いなどわかる範囲で聞き取り調査が行われる。臨床実習中に結核菌排菌患者との接触があった場合,附属病院感染制御部,保健所の指示により定期外検診を実施する。病院感染対策マニュアルに従って感染危険度指数に応じた対応となる。 
 実習での接触以外で学生の中からの結核患者発生が判明した場合は医学部長, 学務課長,学生生活委員会等とセンターにより,学内での対応を検討する。所轄保健所担当者と十分な協議を行い,定期外検診の範囲の決定および実施,予防投薬の実施の場合のDOTSなど協力する。この他感染源の確認,感染者および発症者の確認,関連情報の収集など行う。

3. 啓蒙活動
 結核予防に関して入学時オリエンテーションでの説明,パンフレット配布,実習前のオリエンテーション等により学生に対し周知を図る。

4. 参考資料
1)厚生労働省ホームページより 結核
2)大分大学医学部附属病院 感染予防対策委員会 結核感染予防対策マニュアル
  大分大学医学部附属病院感染制御部ホームページより(院内専用)
3)(財)結核予防会結核研究所ホームページより 結核の常識
4)四元秀毅,倉島篤行編 結核 Up to Date 改訂第 2版. 南光堂 2005